「106万円の壁」撤廃で、これからの働き方はどう変わる?

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「106万円の壁がなくなる」というニュースを耳にしても、具体的にどんな影響があるのか分かりづらいという方も多いのではないでしょうか。ここでは、「106万円の壁」の基本から撤廃の背景、そしてどんな人が影響をうけるのかを整理していきます。

まずは「106万円の壁」の基本をチェック

「106万円の壁」とは、主にパートやアルバイトなど短時間で働く人が、社会保険(健康保険と厚生年金)に加入するかどうかを分ける基準のひとつです。現在の制度では、次の4つの要件をすべて満たす場合に、社会保険への加入義務が発生します。

① 週の勤務時間が20時間以上ある
② 月収8万8000円(年収約106万円)以上
③ 勤務先の従業員数が51人以上
④ 学生ではない

このうち、②の「月収8万8000円=年収約106万円」という要件が、いわゆる「106万円の壁」の根拠になっています。社会保険に加入すると、保険料の自己負担が発生するため、手取りが減るケースもあります。そのため「社会保険料の負担を負いたくない」と考えて勤務時間を抑える人が多く、これが「壁」と呼ばれている理由です。

2026年に「106万円の壁」が撤廃へ

2025年6月に成立した年金制度改正法により、前述の賃金要件(月収8万8000円以上)が2026年10月に撤廃されることになりました。つまり、年収が106万円を超えない場合でも、一定の労働時間を満たすと社会保険へ加入することになります。さらに今回の改正は、「106万円の壁」だけにとどまりません。今後は賃金以外の加入要件も次のように段階的に見直され、社会保険の対象となる人の範囲が広くなります。

  • 2027年:従業員数51人以上という企業規模の要件が撤廃、すべての企業が対象に
  • 2029年:業種による適用除外がなくなり、常時5人以上の従業員を雇う個人事業主も対象に

これらの改正がすべて完了すると、企業の規模や業種に関係なく、週20時間以上働くすべての人が社会保険の対象となります。つまり、「大企業だから対象」「小規模事業者だから対象外」といった線引きがなくなり、勤務先の条件や雇用形態に左右されず、同じ公的保障を受けられる仕組みへと変わります。

この制度が撤廃される理由は?

撤廃の背景には、いくつかの社会的な要因があります。まず挙げられるのは、深刻な人手不足。働きたい人が制度上の「壁」を気にして就業時間を減らす現状は、労働力不足に悩む企業にとって大きな課題でした。また、最低賃金の上昇により、「週20時間働くだけで106万円を超える」ケースが増えており、賃金要件が現実に合わなくなっていたことも理由のひとつです。政府は「働く意欲を損なわない制度」を掲げ、誰もが安心して働ける社会保険制度にするため、賃金要件の撤廃を決めました。

実際にどんな人に影響がある? その内容は?

これまで、社会保険料負担はしたくないと働き方を調整していた、専業主婦(夫)などは、週20時間以上働くと、年収に関係なく社会保険料が発生してしまうので、これまで通り働いたとしても手取りが減ってしまう可能性があります。ただし、社会保険に加入することで、自身の年金額が増え、病気や出産の際に手厚い公的保障が受けられるなど、結果的に収入が増える可能性も見込めます。また、これまで社会保険に加入したくても、企業要件などがネックになり加入できなかった人にとっては、大きなメリットになるといえます。

「106万円の壁」の撤廃は、働く人の事情によっては、手取りの減少という懸念を伴いなますが、長期的に考えていくと、社会保障の充実につながるよい改正といえます。特に、共働きが当たり前になってきたことや人生100年時代となった現代の状況では、公的保障は自分で確保しておく方が、将来の安心にもつながります。この制度改正を機に、自分の働き方やライフプランを一度見直してみるタイミングがきているのかもしれません。

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